女ひとり 定年退職後の日々の暮らし

いつか行ってみたかった場所、いつかやってみたかったこと。その「いつか」が「いま」となり、実行に移す日々を綴ったもの。

退職して思うこと(20)~番外編②

やっとワーキングビザが下り、NYへ出発することになりました。会社の本社オフィスは、マンハッタンから北に電車で1時間程の田舎町にあります。日本から赴任する場合は、だいたいその近くの郊外の町にアパートや一軒家を借りて、車でオフィスに通うことになります。

それまでにも、数週間単位での出張で何度も米国を訪れたことがありましたが、いざ居住するとなると、その手続きの煩雑さと、2000年代の当時ですでに現金が通用しないシステムには頭を抱えてしまいました。


米国で生活を始めるには、まずSSN(Social Security Number)と呼ばれる住民登録番号と、銀行口座の開設、住所の3つが必要です。これらの情報が、その後の 電気、電話、TVの申込、車の登録、運転免許取得など、ありとあらゆる手続きに必要となります。ところが、SSNの申請には住所が必要で、銀行口座の開設にはSSN番号と住所が必要、居住する部屋を借りるには逆にSSN番号と銀行口座が必要になります。

いったいどれから行えばいいのやら? もともと米国で育った場合は住所もSSN番号もありますから問題ないのですが、外国から来た人にとっては大きな敷居となります。この3つが取得できないと生活が始まりませんから、通常は会社が手配した赴任コンサルタントにサポートしてもらいながら会社の信用保証で何とか乗り越えます。


私の場合は、まず銀行口座の開設を行いましたが、この時点では住所も SSN 番号もありませんから、会社の保証があっても、チェックと呼ばれる小切手用紙は3枚しかもらえず、銀行のクレジットカードも作れませんでした。次にアパートの契約に行きましたが、敷金や家賃、不動産手数料などの支払いは現金ではだめで、小切手かクレジットカードでしか受け付けてもらえませんでした。SSNが届くまでの2週間は、このわずか3枚のチェックをどう使うか、大いに悩んだところです。

米国では年収や預金があっても、クレジットカードの支払い実績が無いと、カード会社はカードを発行してくれません。これでは最初のカード実績が作れませんから、米国人でも困ることがよくあるのだそうです。たいていは、大学などで学生用クレジットカードが一括支給され、それを手始めに実績を作って社会に出ていくのだそうです。


仕方がないので、日本の銀行でドル建てクレジットカードを作ったのですが、1カ月ぐらい経つと、それまで申請できなかったはずの米国の銀行のクレジットカードがひょっこり郵送されてきました。実績ができたということだったのでしょう。


米国では申込よりも先に勝手にカードが郵送されてきて、それを自分でパソコンなどで Activate、すなわち 使用開始の手続きを取ることによって開始されます。その後はなんと、米国に居住していた間に、さまざまな商店や会社のカードが頻繁に郵送されてきました。最初は紙製のカードが届きます。それらの中で使いたいものだけ Activate して利用を始めると、しばらくしてプラスティックのクレジットカードが届く仕組みでした。


要するに米国社会は、最初に社会の環の中に入るのは難しい仕組みになっていますが、きっかけを掴んでいったん中に入ってしまうと、後は勝手にうまく回るもののようです。日本でも数年前にマイナンバー制度が始まりましたから、今では日本も外国人にとって同じ状況かもしれません。だからこそ、いったん落ちこぼれてしまうと怖いですね。



家は、NY州ウエストチェスター郡の比較的治安の良い場所で、アパートメントを借りることができました。日本の食材が置いてあるスーパーや、日本人向けの本屋がある、郊外の落ち着いた町です。車も帰国する同僚から譲ってもらいました。


こうして米国での生活と仕事がスタートしたのでした。
つづく。